2026年9月01日
骨盤臓器脱とは、子宮や膀胱、直腸などの骨盤内の臓器が下がり、腟の中や外に出てくる状態です。
「腟から何かが出てくる感じがする」「夕方になると下がってくる」「歩いていると違和感がある」といった症状のほか、尿が出にくい、頻尿、排便しにくいなどの症状を伴うこともあります。
骨盤臓器脱と診断されても、必ずしもすぐに手術が必要というわけではありません。
症状の程度や年齢、生活スタイル、ご希望などに応じて、生活習慣の見直しや骨盤底筋体操、ペッサリー療法、手術などから、その方に合った治療方法を選択します。
骨盤臓器脱の進行度
骨盤臓器脱の進行度としてPOP-Q分類があります。
StageⅠ
腟の最も下降している部位が処女膜輪より1cm以上上であり、軽度の子宮下垂です。自覚症状はほとんどありません。
StageⅡ
腟の最も下降している部位が処女膜輪の1cm前後にある状態で、腟の入り口付近まで子宮が降りてきています。夕方や疲れた頃、重い荷物を持つと何かが下がった感じがする、尿漏れが頻繁に起こる、といった自覚症状を感じやすくなります。
StageⅢ
腟の最も下降している部位が処女膜輪の1cmより下にある状態で、子宮の一部が腟の外に出ていることがほとんどです。何かが常に腟の入り口にある、股に何か挟まった感覚がある、丸いものが腟の入り口に触れる、出血する、といった症状が出てきます。
StageⅣ
子宮が完全に脱出している状態です。何かが腟から飛び出てぶら下がっている、出血する、尿があまり出ない、といった症状が出てきます。

画像:Bump RC, Mattiasson A, Bø K, Brubaker LP, DeLanc- ey JO, Klarskov P, Shull BL, Smith AR. The standard- ization of terminology of female pelvic organ prolapse and pelvic floor dysfunction. Am J Obstet Gynecol 175 : 10-17, 1996.
まずは生活習慣を見直しましょう
骨盤臓器脱は、骨盤の中の臓器を支えている筋肉や靱帯が弱くなることで起こります。
加齢や出産などが主な原因ですが、日常生活の中で繰り返しお腹に強い力がかかることも、症状を悪化させる原因になります。
そのため、次のような点に気をつけることが大切です。
・便秘を予防し、排便時に強くいきまない
・重いものを繰り返し持つことをなるべく避ける
・適正な体重を保つ
・長く続く咳がある場合は治療する
・骨盤底筋体操を行う
軽症の場合には、このような生活上の工夫や骨盤底筋体操を行いながら経過をみることもあります。
ペッサリー療法とは
ペッサリー療法は、腟の中に「ペッサリー」という医療用の装具を入れて、下がってくる臓器を支える治療法です。
手術をせずに症状を改善でき、重い合併症が起こることも比較的少ないため、骨盤臓器脱に対してまず検討されることの多い治療法です。ペッサリー療法は、症状のあるPOP-Q Stage II以上の骨盤臓器脱に対して広く行われる保存的治療です。高度な骨盤臓器脱にも使用できる場合がありますが、脱出の程度によってはペッサリーが外れやすく、手術などほかの治療方法を検討することがあります。
特に、
・まずは手術以外の治療を試してみたい方
・手術を希望されない方
・持病などのため手術の負担が心配な方
・今後の妊娠を考えている方
などでは、有効な選択肢となります。
ペッサリーを使用することで、腟から臓器が下がってくる感覚や違和感などが軽くなり、長期間ペッサリー療法を続けている方もいらっしゃいます。
ペッサリーには様々な種類があります
ペッサリーには、形や大きさ、材質などによってさまざまな種類があります。一般的には、腟の中で臓器を支えるリング型のペッサリーなどが使用されます。
大切なのは、その方の腟の状態や骨盤臓器脱の程度に合った種類・サイズを選ぶことです。
ペッサリーが小さすぎると、歩いたり排便したりした際に自然に外れてしまうことがあります。
一方、大きすぎると違和感や痛みが生じたり、腟の粘膜が圧迫されて出血や傷(びらん・潰瘍)ができたりすることがあります。
そのため、診察を行いながら適切なサイズを選びます。最初に選んだサイズが合わない場合には、サイズを変更して調整することもあります。
当院では、主に2種類のリング型ペッサリーを使用しています。患者さんの症状や腟の状態、生活スタイル、ご希望などに合わせて、適した方法をご提案します。
① 医療機関で管理するリングペッサリー
比較的しっかりとした素材のWallace(ウォーレス)リングペッサリーを使用します。腟内に留置し、定期的に受診していただきながら、リングの状態や腟粘膜に異常がないかを確認します。
② ご自身で着脱するリングペッサリー
柔らかいシリコン製のリングペッサリーを使用します。使用方法をご説明したうえで、ご自身で挿入・取り外しを行っていただきます。
ペッサリーを安全に使い続けるために
ペッサリー療法は比較的安全な治療ですが、長期間使用していると、
・おりものが増える
・少量の出血がみられる
・違和感や痛みがある
・腟の粘膜に傷やびらんができる
といったトラブルが起こることがあります。
そのため、症状がなくても定期的に診察を受け、腟の粘膜やペッサリーの状態を確認することが大切です。
ペッサリーの管理方法には、①医療機関で定期的に診察をする方法と②ご自身で取り外し・挿入を行う方法(自己着脱)があります。
① 医療機関で管理する場合
治療開始はまず1ヶ月でペッサリーのサイズ確認に来て頂きます。その後は3ヶ月おきに経過観察が望ましいですが、通院のご負担が大きい場合は状態に応じて4〜6ヶ月ごとの診察とすることも可能です。
② 自己着脱で管理する場合
ご自身の生活に合わせてペッサリーを管理しやすくなり、通院の負担や、おりもの・出血などのトラブルを減らせる可能性があります。ただし、適切な管理方法はペッサリーの種類や患者さんの状態によって異なりますので、医師から使用方法や注意点について十分な説明を受けて使用しましょう。
出血が続く、強い痛みがある、おりものの量やにおいが急に変わった、ペッサリーが外れた・取り出せないなどの場合には、次回の定期受診を待たずにご相談ください。
ペッサリー以外の保存的療法
ペッサリー以外にも、骨盤臓器脱の症状を軽減するための方法があります。
骨盤底筋体操
骨盤底筋は、子宮や膀胱、直腸などを下から支えている筋肉です。骨盤底筋を意識して締める運動を継続することで、特に軽症の骨盤臓器脱では症状の改善が期待できます。
骨盤底を支える装具
骨盤臓器脱を外側から支えるためのサポーターなどの装具を使用する方法もあります。
ペッサリーの挿入に抵抗がある方や、痛み・出血などのためペッサリーを継続することが難しい方、持病で手術を受けられない・手術を希望されない方などでは、選択肢の一つとなります。それぞれインターネットからご自身でご購入いただく装具となりますが、外来にてパンフレットをお渡しし、製品の特徴や使用方法、ご購入方法などについてご説明することが可能です。ご興味のある方は、診察の際にお気軽にご相談ください。
フェミクッション(三井メディカルジャパン)
フェミクッションは、シリコンでできたクッションで臓器を腟内に戻し、ホルダーとサポーターで押し上げて保持することで症状を緩和します。体内に挿入したり留置するものではないので、臓器や膣粘膜に負担がかからない治療法です 。
骨盤底サポーター(KITAZATO)
キタザト骨盤底サポーターは下着の上から着用する、ショーツタイプのサポーターです。下垂・脱出している臓器を正常な位置に保持する効果があります。
https://healthcare.kitazato.co.jp/pessary/assets/pdf/kitazato-pelvic-floor-supporter.pdf
ソコブラ(ユイワ)
ソコブラは、腟周りの違和感や尿漏れなど、骨盤底の緩みに伴うお悩みがある方のためのガードルタイプの補正下着です。下着の上から着用し、骨盤底を外側から支えることで、日常生活を快適に過ごせるようサポートします。
手術という選択肢もあります
ペッサリーなどの保存的治療を行っても症状が改善しない場合や、ペッサリーの使用が難しい場合、またご本人が根本的な治療を希望される場合には、手術を検討します。手術適応はPOP-Q Stage II以上の骨盤臓器脱で症状を有する場合とされており、主にStageⅢ以上で選択される場合が多いです。
骨盤臓器脱の手術にはいくつかの方法があります。
下がっている臓器の種類や程度、年齢、性交渉の有無、これまでに受けた手術、持病などを考慮して、その方に適した手術方法を選択します。
代表的な手術には、
・腟から行う手術
・腹腔鏡やロボットを用いて、下がった臓器を持ち上げて固定する手術
などがあります。
それぞれにメリット・デメリットがあるため、手術を検討する場合には専門の医療機関で相談し、ご自身に合った治療方法を選ぶことが大切です。
骨盤臓器脱でお悩みの方へ
骨盤臓器脱は、命にかかわることは少ないものの、日常生活の不快感や排尿・排便のしにくさなど、生活の質に大きく影響することがあります。
一方で、症状の程度や生活スタイルに合わせて、さまざまな治療方法を選ぶことができます。
「下から何かが出てくる感じがする」「夕方になると違和感が強くなる」「骨盤臓器脱かもしれない」と感じた場合には、一人で悩まず婦人科にご相談ください。
診察のうえ、症状やご希望に合わせて治療方法を一緒に考えていきます。
参考文献
産科婦人科診療ガイドライン婦人科外来編2026
